2016年6月11日(土)より新宿K’s cinema他にて公開

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こんな悲惨な現実を描いているのに、
美しい映像と音楽でつづられ、
そして最後には希望が残されている

弁護士から見た『月光』

『月光』、この映画で描かれていること-レイプ、性虐待は、遠い世界の出来事、自分には関係のない事と捉えないでいただきたいと思います。レイプや性犯罪は、ごく身近で頻繁に起きている犯罪です。
強かんの認知件数は、ここ数年、年に1,200件から1,500件くらいですが、これは氷山の一角にすぎません。平成26年に行われた内閣府の調査によれば、異性から無理矢理性交されて警察に相談する女性は、4.3%にすぎないので、レイプは、年に3万件以上、毎日何十件~百件超起きている可能性があるのです。

弁護士としてレイプ事件を扱っていると、被害者の受けるダメージの大きさに対し、加害者の、罪を犯すことに対するハードルの低さに愕然とします。もっとも、加害者に限らず、怪我や外傷がなければ、等と軽く考える人もいますが、それは大きな間違いです。レイプは、触られたくもない他人に身体を勝手に扱われ、性器を挿入される-それは時に数時間に渡り、被害者はその間、殺されるかもしれない恐怖や絶望感に打ちのめされる-そのようにして壊されてしまった心の回復は容易ではありません。

『月光』は、そういったレイプ被害の実態がとてもリアルに再現されています。そのため、ご覧になった方は、言葉にできない程の衝撃を受けたり、気分が悪くなってしまったりするかもしれません。ですがこれがレイプです。事件から時が経過しても、恐怖や気が狂いそうな状態、苦しみは続く。そして、そんな大変な思いをしている被害者は何万人もいるはずなのです。(一方、密室でおきるレイプに証拠があることは稀で、そのため、加害者はそのまま生活を続け、そして再び罪を犯す)。
『月光』を見たり、レイプ事件を耳にして、被害者にも非があったのではないか?逃げられたのではないか?等と思う方もいらっしゃるかもしれません。でも、私達は、平和な社会で、基本的に他者を信頼して生活しています。特に知り合いであれば、「疑っては悪い」という心理が働きます。また、「抵抗できたはず」「抵抗しなかったということは合意していたんだろう」等というのも被害者に対ししばしば言われる言葉ですが、いきなり襲われて生命の危険、恐怖を感じる中で、抵抗はおろか、固まってしまって動けず、声すら出なくなってしまうのは極自然な反応です。

『月光』は、こんな悲惨な現実を描いているのに、美しい映像と音楽でつづられ、そして最後には希望が残されている映画です。
レイプ被害の実態をきちんと理解して加害を防止し、被害に遭ってしまっても生きやすい社会にしていくため、一人でも多くの方にこの映画を見ていただきたいと強く思います。

望月晶子

弁護士として多くの犯罪被害者を支援するうちに、性暴力被害者への支援の行き届いていなさを実感し、性暴力被害者のための電話相談、面接相談から、医師や弁護士等専門家の紹介等も行う、NPO法人レイプクライシスセンターTSUBOMIを2012年に立ち上げ、運営している。